優しいイラストに込められた想いとは―イラストレーター・洞智子さん
やさしい雰囲気のイラストが魅力の滋賀県出身・在住のイラストレーター・洞 智子(ほら ともこ)さん。3人の子どもの母親でもある洞さんの作品は、県内の子ども向けの施設にも使用されている。2018年にリニューアルされた滋賀県立琵琶湖博物館ディスカバリールームの壁面イラストも洞さんが手がけたもののひとつ。
そんな洞さんが、イラストレーターになった経緯や、イラストに込める想い、琵琶湖の環境等について話を伺ってきた。
イラストレーター・洞智子が生まれるまで
生まれは信楽。3人姉妹の長女で、小さいころから人形遊びやゲームと同じくらい絵を描くことが好きだったという。
高校は県内のデザイン科へ進学したが、そのころはまだ「仕事として絵を描くとは思っていなかった」と話す。その後、大阪のデザインの専門学校へ進学しグラフィックデザインを専攻。イラストや雑貨のデザインも学んだ。だが、卒業時、世間は「就職氷河期」。デザイナーとしての就職は厳しく、アルバイトをしながら、知人からTシャツ等のデザイン依頼を請けていた。
数年が経ち、帰郷。滋賀県内でデザイナーの仕事を探すが出会えず派遣の仕事に就くも、楽しさが感じられず、京都の会社にデザイナーとして転職。残業も多かったが仕事は楽しく、苦痛は感じなかったという。
結婚が決まり、仕事と家庭、今後始まるであろう育児との両立は難しいと判断し、退職。それからはイラストの依頼を家事・育児の合間にできる程度、年に数回請けている程度だった。そんな中、子どものために、あるものを描いた。『あいうえお表』だ。これが転機となった。
自分の子どものために描いた『あいうえお表』だったが、SNSをきっかけに、商品化の話が持ち上がり、2014年にポスターとして改めて作成し販売。2015年には大阪で初の個展となる「あいうえお展」を開催した。
それをきっかけに、自身のイラストを使って、ポストカードやラッピングペーパー等の作品を作り、滋賀県内のイベントや雑貨店でも販売するようになった。イラストを描くだけではなく、作品として仕上がっていくことが嬉しく、今の生活の中で無理なく続けていける「イラストレーター」に魅かれていった。
「伝えたい」想いが作品作りのきっかけ
「モデルや題材を決めて、”これを描こう”と思って描くのは難しい」と話す洞さんの作品には、「伝えたい」という想いが込められており、「イマドキのものより日本古来のものや大切に残していきたいものを描く」と、イラストにするものについてもこだわりがある。子ども向けの『あいうえお表』に使われている色も、日本古来の色を意識したものだそうだ。
琵琶湖の固有種を描いた『びわこのさかな』は、2016年7月30日から3日間、東近江市・ヘムスロイド村にて開催された個展「しがをみてみよう!展」で、子どもたちや地域の人たちに滋賀の良いところを再発見してもらえるように、と描いた。「琵琶湖にはこんな魚がいる」と伝えることで、琵琶湖の環境を大切にする気持ちを育んでいきたいという想いから、琵琶湖に生息する魚のなかでも「固有種」をピックアップした。
使われている画材は色鉛筆。魚の大きさの比率も考えられて描かれている。イラストにする際には、図書館やインターネットで魚に関する情報を集めたが、「せっかく描くならきちんとしたものを描きたい」という考えから、滋賀県立琵琶湖博物館の学芸員に固有種について教えてもうことにした。これが琵琶湖博物館のディスカバリールームのデザインをするきっかけだった。
新たな挑戦
洞さんにとって、ディスカバリールームの壁面デザインの依頼が来たときは「やってみたい」と思う反面、不安を感じるものだった。というのも、これまでのイラストは両手に収まる程度の大きさ。壁一面という大きなの作品は未知の世界だったからだ。それでも、「わたしに依頼が来たということは、できるはず」と挑戦を決めた。子ども向けの部屋であること、展示の内容など、博物館担当者や施工会社と何度も打ち合わせを重ねながら試行錯誤を繰り返し、実物の5分の1の大きさで作品を完成させた。
この作品も『びわこのさかな』と同じく色鉛筆で描かれており、制作期間は数か月を要した。描かれたバス停には「琵琶湖博物館」と描かれていたり、大人の目線では気づきにくい場所や展示にあわせた場所に、実は生き物が描かれていたり細部までこだわりが感じられる。ディスカバリールームを訪れた子どもがたちが楽しめる工夫がなされているのは、母親である洞さんだからこそのなのかもしれない。制作期間を振り返り「おそろしい挑戦だったが、とても楽しい時間だった」と洞さんは話す。
また、壁面の作品といえば、2019年秋にオープンした、TSUTAYA BOOK STORE 近鉄草津内の壁面イラスト「いくつ知ってる?滋賀のあいうえお」も洞さんの作品だ。
児童書等こども向けの書籍のコーナーに設置されることから、「文字を学べること」「滋賀を知ることができること」を描きたいという洞さんの想いが、滋賀のモノ、人、生き物などを50音にのせて描いたこの作品となった。この作品は、依頼がきてからなんと1か月で仕上げたというから驚きだ。
洞さんにとっての琵琶湖
滋賀で生まれ、これまでの人生のほとんどを滋賀で過ごした洞さん。身近に存在する琵琶湖は、「あって当たり前」の存在だそう。車や電車の車窓から琵琶湖が見えるなら、当たり前のように眺め、毎年夏になると琵琶湖に注ぐ川のへ水遊びに出かける。
ところが先日、琵琶湖北部を通りがかった際、何気なく琵琶湖の風景を眺めると、今までは気づかなかった美しさに目を奪われたという。遠くに山が見え、手前に静かな湖が広がる琵琶湖の素晴らしい風景。
これまで風景を描こうと思うことはなかったが、「描いてみたい」と思う美しさだった。これも、「滋賀・琵琶湖にはこんな美しい風景があることを伝えたい」という想いがあったのかもしれない。
琵琶湖の環境について尋ねると、「同じ琵琶湖でも南と北では雰囲気が全く違う。南は自然と生活がうまく融合して、夜景などはとても美しい。北は自然が多く残っていて、そのままの姿が素晴らしい。
それぞれ良いところがあるので、失われることがないよう願っている。大きなことはできないが、滋賀や琵琶湖のことをイラスト等を通して伝えたりすることが、環境や琵琶湖のための何か力になれば嬉しい」と話してくれた。
京都の海のまちに生まれ、大学で千葉へ。一度は都内で就職するも、結婚を機に滋賀に住むことになりました。現在は彦根で一男一女を育児中。ママコーラス副代表など、新しいことにチャレンジしています。
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