水草で着色したガラスブランド「琵琶湖彩(びわこいろ)」-glass imeca 神永朱美さん
(写真提供:glass imeca)
琵琶湖の水草を使ったガラスブランドが話題になっています。その名も「琵琶湖彩(びわこいろ)」。製造している滋賀県大津市のガラス工房「glass imeca(グラス イメカ)」を訪ねました。
glass imeca の誕生
大津市ののどかな田園風景にあるレーザー加工工場。その一角に神永朱美(かみながあけみ)さんがひとりで営むガラス工房、glass imeca があります。2017年に設立されたまだ新しい工房です。
取材時に出してくれたのは、神永さんの手作りガラスドリッパーで淹れたコーヒー。耐熱ガラスではないので商品化は難しいそうですが、急激な温度変化を避けゆっくり丁寧に淹れられたホットコーヒーはここだけで味わえる格別の味でした。
「imeca」は神永さんの名前「朱美(akemi)」を逆から読んだもの。元は自身に贈られたカップに贈り主が遊び心で付けた名でしたが、そのアイディアやユニークさに感動し、工房名に「imeca」を入れました。
琵琶湖彩が生まれる瞬間
imecaガラス製品の中でも、淡く優しいグリーンが印象的な作品。それが琵琶湖の水草を使ったガラスブランド「琵琶湖彩」です。
触れるとまだ温かい琵琶湖彩の窯出しの時間に立ち会わせてもらいました。
琵琶湖そのものを感じられる透き通った色は、琵琶湖で育った水草だからこそ出せる色なのでしょう。まさに琵琶湖が育んだ色という神秘やロマンが感じられます。
滋賀でガラス作家としてスタートした意外なきっかけ
(写真提供:びわこビジターズビューロー)
神永さんはなぜガラス作家に、そして琵琶湖の水草を使う発想に辿り着いたのでしょうか。
茨城県出身の神永さん。北海道の大学に進学した後、小樽市のガラス製造・販売会社に就職しました。そこで販売等の仕事を通して、スタッフたちのガラスに対する愛情に心打たれたそうです。
経験を積んで進むであろう道は管理職だったはずが、「ガラスの現場を離れたくない」という思いが日々強くなり、一連の仕事を経験したものの「作ることだけはやっていない」と作り手になることを決めたそうです。
2009年に小樽市のガラス製造会社へ転職した後、2011年に京都の工房へ弟子入り。2017年に独立を目指して物件を探していた時、ものづくりを応援したいと信頼して貸して下さったのが、後に工房となるこの場所でした。「都会に近い田舎」という環境も非常に魅力的だったようです。
周りに気にかけてくれる方や応援してくれる方が増えるごとに、人やまちとより繋がっていく実感がありました。
唯一無二の色が出せるのが琵琶湖の水草だった
温かくて素晴らしい滋賀の人々と触れ合いを通して、何か滋賀に貢献できないか・・・滋賀らしい新しい色を作れないか、そう考え始まったのが「琵琶湖彩」の開発でした。
まずは単純に「綺麗な色」を作りたい。ガラスに色を付けるのは鉄や銅、コバルト、マンガン等の鉱物です。あらゆる鉱物を調べたそうですが、実際に採掘して素材にするまでかなりの労力がかかります。
どうせ使うなら、世の中に余っているものや厄介者扱いされている素材がいい。そうして辿り着いた先が、琵琶湖の水草を高速粉末化させ廃棄処理している企業でした。幸運にもこの企業は工房のほど近く。ネット検索から始まった素材探しが加速した瞬間でした。
試行錯誤の連続と今後の可能性
植物であれば陶芸の自然釉と同じような色が出るはずという予想のもと、開発がスタート。
ガラスに色を付けるのは葉緑体の色ではなく、水草に含まれる鉄分です。水草の成分分析から始まり、理想の色に近づけるため、色を安定させるため、何度も調合を研究したそうです。
また水草に付着した貝等の不純物が、作業性や塊・気泡など見た目にも影響したことから、一度灰にしてからふるいにかけ、混ぜるという手法を採用しました。
今は透明ガラスとの膨張係数が合わず1色のみの展開ですが、膨張係数を合わせることができれば透明ガラスとの組み合わせが可能になります。またガス窯を使った酸化還元により色を変えることで、デザインの幅はさらに広がります。
「綺麗なものじゃないといけない」という職人としてのこだわりが、ここでもひしひしと感じられました。
琵琶湖彩の技法をオープンにする理由
これだけ苦労して開発された技術ですが、「ひとりで広げていくのではなく、様々な人と関わりながら滋賀の地域ブランドとして広げたい」と語る神永さん。例えば先日、滋賀県知事の定例記者会見の際に滋賀県へ贈呈された作品は、ガラス工芸作家の市川知也(いちかわともや)さんがglass imecaで制作したものだそうです。
技法や色のデータも全てオープンにし、ガラス工芸作家のみならず、陶芸など他分野の作り手にも幅広く使ってほしいと言います。
神永さんは「私自身も今はまだ自分の作りたいものを作るという段階ではなく、周りからの作ってほしいという要望に100%寄り添っていきたいと考えています」と話してくれました。
取材の後、ガラス作りの作業を見せてもらいました。ひとつひとつの作品へ丁寧に命を吹き込む姿は息をのむほど美しく、無駄ひとつないまさに職人の立ち居振る舞いでした。作家であり、職人でありながら、人やまちとの調和を大切にする神永さん。
琵琶湖彩にご興味を持たれた作家さんや企業さんは、ぜひ一度連絡を取ってみてはいかがでしょうか。
琵琶湖彩に出会える場所
(写真提供:glass imeca)
琵琶湖彩は生活の中で気軽に取り入れてほしいとのこと。定期的に滋賀県内や京都・大阪などの近畿圏を中心に作品展や販売会を開催しています。
滋賀では、6月ぐらいまで西武大津店(大津市におの浜二丁目3-1)の小物売り場一角で販売中ですが、6月9日~15日は特設展示での展示販売が決定しています。近鉄百貨店草津店(草津市渋川一丁目1-50)では4月8日~14日の一週間、gallery AMISU(長浜市元浜町11-23)では4月25日~5月31日に展示販売が行われるそうです。
作品展や販売会の最新情報はglass imeca のInstagram や Facebookページをご覧ください。
glass imecaでは琵琶湖彩以外にも、アクセサリーやランプシェード、箸置きや食器など生活に寄り添うガラス製品を制作しています。滋賀県内だけではなく、神永さんのゆかりの地・北海道や京都でも取扱店舗が広がっています(glass imeca 製品 取扱い店舗)。お出かけの際に立ち寄ってみてくださいね。
glass imeca ホームページ
glass imeca Instagram
glass imeca Fakebookページ
1980年 高島市生まれ。守山市在住。
大学卒業後は大阪・東京に在住するも故郷の魅力を再認識し滋賀にUターン。
普段は子育て情報誌の編集やまちづくりに関するイベント運営などを行っています。
趣味は空手とチアダンス。三姉妹の母。
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