びわ湖の漁業を取り戻す外来魚対策 水産資源をまもるための滋賀県の取り組み
「在来魚を獲りたいのに、外来魚ばかり獲れてしまう」。琵琶湖で漁業を営む方たちの悲しい声があがっています。滋賀県農政水産部水産課はそんな漁業者の声に対してどのような取り組みを行っているのか、お話をうかがってきました。
主な駆除対象外来魚
琵琶湖には多くの在来種とともに外来種も生息しています。昭和40~50年にかけてその姿がみられるようになった「ブルーギル」(写真上)や、平成5年に彦根市沿岸ではじめて確認された「オオクチバス(ブラックバス)」(写真下)が特に有名です。
外来魚は、水深が浅く水草の多い南湖が住みやすいようで、北湖に比べてその生息数が多いそうです。北湖でも沿岸部には多く生息しているそうです。
これら外来魚は在来魚を捕食するので在来種が減少、琵琶湖の生態系を崩す原因と考えられています。
外来魚に関する問題は、琵琶湖に限らず、全国各地の湖やため池でも確認されていて、対策が求められているそうです。
外来魚の駆除促進対策事業
「外来魚駆除量」:滋賀県農政水産部水産課 提供
滋賀県は外来魚対策を強化するため、平成14年に漁業者に外来魚捕獲経費の補助を始めたそうです。
この事業は滋賀県漁業協同組合連合会が実施。漁船の燃料代や網の修繕費用等を補助するため、外来魚1kg当たり380円(令和元年度、県が半額、残りは国が補助)を支給。その結果、急激に駆除量は増え、平成19年には543tにまで増加しました。外来魚捕獲経費の補助は2019年度も行われています。
小型の外来魚(オオクチバス)対策事業
経費補助により、外来魚の駆除量は増えましたが、重量に対した補助事業であるため、小型の外来魚駆除は敬遠されたそうです。
大型の外来魚が駆除により減少したため、外来魚同士の共食いも減り、将来大型化するオオクチバスの稚魚が生き残りやすくなるのではという懸念が新たに生まれたそうです。また水産試験場の調査で、小型のオオクチバスの生息量が多いとニゴロブナの稚魚の生き残りが悪くなることが分かったそうです。
その、小型のオオクチバスの対策として、ニゴロブナの稚魚などの在来魚が多く生息している水域で刺網などによる集中的な駆除を行っているそうです。
外来魚の産卵期を狙った集中捕獲事業
オオクチバスは産卵期になると、オスが産卵場を作りメスを誘って産卵させ、巣や稚魚を守るそうです。そのためこの時期のオオクチバスは、機敏性が低下する特徴があり、ボートで近づいても逃げられにくいそうです。
このタイミングで産卵場所に電気ショッカーボート「雷神」「いかづち」で近づき、麻痺させ捕獲するという方法をとっているそうです。南湖を中心に年間50~60回実施されているそうです。
漁業者によって捕獲された外来魚の行方
県内で捕獲された外来魚は、漁連がまとめて堆肥加工業者に売却し、その売り上げも漁連が管理しているそうです。
日々大量の外来魚が捕獲されるため、近隣の業者では処理できず、広島県内の加工業者が引き取りにきているとのことです。
ブラックバス・ブルーギルの現状と今後の駆除に関する検討会の実施
「外来魚推定生息量」:滋賀県農政水産部水産課 提供
様々な方法で駆除が続けられるブラックバスとブルーギル。その推定生息数は徐々に減少しています。ブルーギルは、平成19年は1689tでしたが、平成30年には278tと1/6程度にまで減っています。一方、オオクチバスは平成19年の444tから平成30年には230tと減っているものの、ブルーギルと同じような減り方ではありません。
これは生息数が減ったことで獲りづらくなったことも理由のひとつと考えられ、県と研究者、漁業関係者は、定期的な検討会やさまざまな機会を活用して外来魚問題の意見交換を行い、様々な対策を考えているそうです。
課題と対策
オオクチバスの駆除は、これまでの方法に加え、繁殖抑制と集中駆除といった対策が行われています。
オオクチバスの稚魚は、体長が20mm程度になるまでは群れで過ごす習性があるそうで、タモ網で一気にすくって稚魚を捕獲することで効率よく繁殖の抑制ができます。この方法で平成30年度は395万尾(39.5kg)の駆除が行われました。
稚魚は在来種のカネヒラに似ているそうですが、漁業者はオオクチバスの稚魚だけをすくい取れるそうです。
かつては優良な漁場であった赤野井湾の再生をめざし、オオクチバスを中心に電気ショッカーボートでの産卵期駆除や、タモ網での稚魚の駆除を集中的に行ったそうで、平成30年度はショッカーボートだけで3.8t駆除したとのことです。
同時に水田にニゴロブナやホンモロコの放流や、在来種が琵琶湖から水田に出やすいようルート整備するなどしているそうです。
チャネルキャットフィッシュへの緊急駆除対策
また、最近は「チャネルキャットフィッシュ」も問題で、平成13年にエリで捕獲され、平成25年以降瀬田川洗堰下流で捕獲が増加、平成30年には瀬田川洗堰上流でも増加しているそうです。
「チャネルキャットフィッシュ生息状況」:滋賀県農政水産部水産課 提供
すでに多く繁殖している琵琶湖のブルーギル・オオクチバスとは違い、まだ増加して間もないチャネルキャットフィッシュについては、生息数の少ないうちに駆除をしてしまおうと、緊急駆除対策が行われています。
駆除事業以外の事業
「外来魚産卵位置図」 出典:滋賀県-「外来魚の釣れる場所教えます」
県ホームページにある「外来魚の釣れる場所教えます」。これは外来魚駆除事業を行う水産課から発信している情報で、駆除事業効率化のため、平成22年~23年に湖岸から産卵床を調査し作製したそうです。
釣りを楽しむ一般の方々の協力を得る外来魚対策としては、琵琶湖保全再生課が「外来魚回収ボックス」等の事業をおこなっていますが、この情報も釣り人に利用してもらい駆除の促進につなげたいとホームページで公開しているそうです。
今後の展望
駆除事業が始まって約35年が経ちました。「滋賀県農業・水産業基本計画」(平成28年3月策定)は令和2年度末の外来魚推定生息量の目標を600tとしていましたが、平成30年に既に500t台まで低下し、その結果在来魚は徐々に増えていると考えられています。今も外来魚駆除に反対する声もあるようですが、琵琶湖の漁業を取り戻すため「今後も検討を重ねながら駆除事業は継続していく」とのことでした。
「ホンモロコの漁獲量」:滋賀県農政水産部水産課 提供
琵琶湖の漁業を取り戻すために行われている外来魚対策。在来魚の漁獲量の変化について尋ねてみると、ホンモロコの漁獲量のデータを見せてくれました。ホンモロコの漁獲量は平成8年頃から50tを割るところまで減少していますが、平成17年頃から少しずつ増加しています。令和2年度は60tを目指したいと話してくれました。
ただ、漁獲量は生息量と比例しているわけではなく、漁獲量が一時減少したことで、需要の減少につながり、漁獲量が調整された可能性もあるそうです。
琵琶湖の漁業を取り戻すためには、琵琶湖の環境を整えるだけでなく、商品としての需要も取り戻していく必要があると気づかされました。
※本文中の写真は滋賀県農政水産部水産課から提供をうけたものです。
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京都の海のまちに生まれ、大学で千葉へ。一度は都内で就職するも、結婚を機に滋賀に住むことになりました。現在は彦根で一男一女を育児中。ママコーラス副代表など、新しいことにチャレンジしています。
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