釣りを楽しみながら外来魚駆除を 滋賀県「外来魚回収ボックス・いけす」などの取り組み
琵琶湖の周りに点在する「外来魚回収ボックス」は、琵琶湖の生態系を守る大きな役割を担っている。その設置と管理を行っている滋賀県琵琶湖保全再生課で外来魚ボックス設置の経緯や回収、外来魚ボックス以外の取り組み等についてお話を伺ってきた。
外来魚回収ボックスとは
「釣る事が楽しみ」と考える釣り人は、キャッチ&リリース(釣った魚の再放流)がマナーだと考える人も多いだろう。しかし、琵琶湖ではどんな理由であっても生きた外来魚を琵琶湖湖にリリースすることは禁止。生きたまま持ち帰ることも禁止されている。これは、2003年4月1日に施行された「外来魚リリース禁止条例」で規定されているそうだ。そうなると、釣った外来魚はどうすればいいのか。そこで登場するのがリリース禁止条例の実効性を確保するために設置された「外来魚回収ボックス」だ。
当初設置されたのは、大津市・草津市・守山市の21か所。その後、彦根市・長浜市にも設置され、増設、移設、廃止等が行われた結果、現在は65か所に設置されている。設置場所に関しては、回収ルートなども考慮して決められているそうだ。
北湖に比べて南湖の設置が圧倒的に多いのは、釣り人が多いことや外来魚そのものの生息数が多いことが理由なのだそう。今のところ、設置場所を増やす予定はないが、釣り人等の要望があれば検討もしていくそうだ。
外来魚回収ボックスの素材は滋賀県産の木材だそうで、大人3人でやっと動かせるほどの重さがあるため、固定はされていない。
外来魚の行方
画像:滋賀県琵琶湖環境部琵琶湖保全再生課 提供
「外来魚回収ボックス」へ入れられた外来魚は、週に3回、回収されるそうだ。回収しているのは60代~70代の男性3人。「外来魚回収ボックス」の設置が決まった際、回収をしてくれる人を公募したところ、応募してきた方の中から選考で選ばれた委託職員とのこと。回収日には軽トラック2台にそれぞれ大きなバケツを積み、南湖2人、北湖1人に分かれてで回るそうだ。南湖で回収したものは、大津・守山のクリーンセンターへ、北湖で回収したものは彦根のクリーンセンターへそのまま搬入し、一般廃棄物(可燃物)として処理されるそうである。なお、南湖を回るトラックは、通称「イナズマ号」とよばれており、毎年草津にて開催されている「イナズマロックフェス」の寄付金で購入されたものだそう。
回収時には外来魚の重さの計測も同時に行い、回収時に来ている釣り人のカウントもするそうだ。また、「外来魚回収ボックス」は設置されて約17年ほど経っているため、木製のボックスは修繕が必要となってきているそうで、回収時にその状態を確認し、部品の交換や補修も行うそうである。
回収と調査、管理まで行う3人の動きは年齢を感じさせないほど機敏で、朝、大津を出発し、15:00には回収・処分を終え戻って来るそう。若い職員が同行したこともあるようだがついていくのがやっとだったと話す。
一部の方から「外来魚回収ボックスに入っている外来魚を持ち帰っても良いか」という問い合わせもあるようだが、衛生的ではないため禁止されている。なお、釣り上げた外来魚は死んでいれば持ち帰ることもでき、食べることもできる。ブラックバスはスズキのようなあっさりとした白身で美味しいそうだ。県内の一部のレストラン等で提供されているブラックバスは、漁業者から直接仕入れたものなので、「外来魚回収ボックス・いけす」とは無関係だそう。
外来魚回収ボックスの中身
画像:滋賀県琵琶湖環境部琵琶湖保全再生課 提供
外来魚回収ボックスでの回収量は、平均すると南湖は10~20kg程度、北湖は10kg程度だそう。秋~冬は比較的少ないが、休み明けは釣り人が多いためか、回収量も多くなる傾向で、南湖で150kg、北湖で80~100kgという時もあるそうだ。
資料:滋賀県琵琶湖環境部琵琶湖保全再生課 提供
魚の種類としては、ブラックバスに比べてブルーギルの方が多いそう。しかし冬はブラックバスが多いようで、特に2019年~2020年の冬は大型のブラックバスも多くみられたそうだ。
しかし、回収ボックスには外来魚でないものもはいっているようだ。ゴミや固有種などの魚類、時にはヌートリアなど動物の死骸がはいっていることもあるようだ。
外来魚回収いけすとは
画像:滋賀県琵琶湖環境部琵琶湖保全再生課 提供
「外来魚回収ボックス」の設置が少ない北湖を中心に「外来魚回収ボックス」と同様の役割を担う「外来魚回収いけす」が25か所設置されている。これは流れに影響されない漁港等が北湖には多くあるためだそうだ。「外来魚回収いけす」は、「外来魚回収ボックス」とは違い、生きている状態で回収されているため、回収後も有効利用が可能なのだそう。
回収・処理を行うのは東近江市の特定非営利法人AJA(あや)。障害者の日常生活・社会生活を支援している施設で、ぶどうやいちごの農園を持っており、さらに堆肥加工施設もあるそうだ。「外来魚回収いけす」から新鮮な外来魚を回収し、その堆肥加工施設にて堆肥化、それを農園で使用しているそうだ。
画像:滋賀県琵琶湖環境部琵琶湖保全再生課 提供
2019年にはその堆肥を使って栽培されたぶどう「竜宝(りゅうほう)」が西武大津店の店頭にもならんだ。その味は甘くみずみずしいものだったそうだ。
画像:滋賀県琵琶湖環境部琵琶湖保全再生課 提供
外来魚回収の普及活動と駆除量の変化
資料:滋賀県琵琶湖環境部琵琶湖保全再生課 提供
「外来魚駆除ボックス・いけす」設置当初は、何のために置いてあるものなのか、その必要性などの問い合わせも多くあったようだが、琵琶湖の生態系を守るために必要であることを伝え、協力を促してきたそうだ。その認知度を上げ、回収量を増やすために、設置が始まった2003年から2007年には「ノーリリースありがとう券」という地域で使えるチケットを「外来魚ボックス」に入れた外来魚の重さに応じて渡していたこともあるそうだ。その効果か、2007年に回収量はピークとなっている。
釣り人を応援する「外来魚釣り上げ名人」
画像:滋賀県琵琶湖環境部琵琶湖保全再生課 提供
県琵琶湖保全再生課が行っている外来魚に対する取組は、回収ボックスやいけすだけではない。
2016年には「外来魚釣り名人」という取組を行っているそうだ。参加費は無料で、個人でもチームでも参加でき、その年齢・性別も問わない。ルールは、実施期間中(1年間)に釣り上げたブラックバス・ブルーギルの重量に応じて「初段」(10~20kg)から「名人」(460kg超)の10段階の段位が与えられる。釣り上げた重量の報告は月ごとで、大きさではなく重量で競うため、大きい外来魚を狙わなくても、小さい外来魚を多く釣り段位を上げる方法もある。女性やチームの登録も少なからずあるが、名人に認定されているのは個人の方ばかりだそう。
また、3年連続名人に認定された方には「殿堂入り」という称号が与えられるそうだ。この「殿堂入り」を果たしたのは2016年・17年・18年の3年で名人になった県内の男性1人だけだそう。
取材時、すでに2年連続名人に認定されている方もおられるそうなので、今年度の結果によっては「殿堂入り」を果たす方が増える可能性もあるそうだ。
小中学生も「びわこルールキッズ」
画像:滋賀県琵琶湖環境部琵琶湖保全再生課 提供
2008年からは、子どもたちにも琵琶湖の在来魚を外来魚から守る活動をひろめるため、夏~秋にかけて「びわこルールキッズ」という取組も行われている。こちらは重量ではなく釣った外来魚の匹数を報告する。小中学生個人の登録はもちろん、家族や子供会、学校等の団体の登録もできるそう。2019年度は770名程の登録があり、中でも多く釣り上げたのは家族登録をされた方で、3000~4000匹も釣ったそうだ。この家族には知事からの表彰が行われ、副賞も贈呈された。
また、期間中には竿の貸出等の特典が付いた「びわこルールキッズ釣り大会」も行われており、釣りに興味を持っている子どもたちの背中を押す取り組みにもなっているようだ。2019年の「びわこルールキッズ釣り大会」には、県内外から422人もの参加があったそうだ。
外来魚回収の今後
出典:大阪市立自然史博物館
「外来魚回収ボックス・いけす」に加え、「外来魚釣り名人」や「びわこルールキッズ」の取り組みは、一般の釣り人の存在によって成り立っている活動だ。県琵琶湖保全再生課担当者は、「レジャーとして楽しんで一般の方に協力してもらうことで持続できており、その成果もでている」と話してくださった。
県内では「外来魚は外来魚回収ボックス・いけすへ」が当たり前になってきているようだが、県外ではまだまだ知らない人も多いそう。そこで県外でも認知度を高めようと、大阪市立自然史博物館で行われる特別展「知るからはじめる外来生物~未来へつなぐ地域の自然~」(2020年3月1日~5月31日)で、外来魚回収ボックスの実物を展示するという。実際に触れることもでき、外来魚回収ボックスの存在はもちろん、必要性やその効果についてアピールしていくそうだ。
京都の海のまちに生まれ、大学で千葉へ。一度は都内で就職するも、結婚を機に滋賀に住むことになりました。現在は彦根で一男一女を育児中。ママコーラス副代表など、新しいことにチャレンジしています。
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