琵琶湖におけるマイクロプラスチック問題~私たちだからこそできる事~
(イメージ写真)
海のマイクロプラスチック問題が取り上げられるようになり、琵琶湖でもマイクロプラスチックの調査が行われ、その存在が公表されるようになりました。
この事実を知り、大変だと騒ぐことよりも大切なことがあります。それは正しい事実を知ること、自分に出来る事を具体化すること。
今、世間を騒がせているマイクロプラスチックとは何なのか?から琵琶湖のマイクロプラスチックの現状や、県としての対策、そして滋賀県は世界初の実績を作れる可能性があるという話を、滋賀県琵琶湖環境部琵琶湖保全再生課 水質・生態系係主査の藤原務(ふじわらつとむ)さんにお伺いしました。
マイクロプラスチックの定義
私たちの生活に切っても切り離せないプラスチック。安価で便利で今や普通の暮らしをするためには必要不可欠です。その弊害がマイクロプラスチックという形で問題視されています。マイクロプラスチックについて考えるうえでプラスチックごみの問題をまず考えなければなりません。
琵琶湖のプラスチックごみには大きく分けて5つの課題があると藤原さんが説明してくれました。
①海岸・湖岸などの美観・景観が損なわれること。②プラスチックの製造により、石油資源の枯渇や温室効果ガスの排出量が増加すること。③大量廃棄やアジア各国の廃棄物禁輸措置等により、適正処理が懸念されること。④漂流するプラスチックごみの誤飲などによって生態系への影響が懸念されること。⑤マイクロプラスチックに吸着する化学物質による生態系・人体への影響が懸念されること。
特に5番目を見るとマイクロプラスチックそのものではなく、それに吸着する化学物質が問題だとわかります。
マイクロプラスチックについては「微細なプラスチックごみ(5ミリ以下)のこと」という基準があります。含有/吸着する化学物質が誤食や誤飲により食物連鎖に取り込まれることにより、生態系への影響が懸念され、2015年独G7首脳宣言においても、海洋ゴミ(とりわけプラスチック)が世界的な問題であると確認されました。
現在環境省では具体的に「日本周辺海域等における分布状況」「マイクロプラスチックに吸着しているPCB等の有害化学物質の量を把握するための調査」を行っています。
また、マイクロプラスチックは2分類され、「一次的マイクロプラスチック」と「二次的マイクロプラスチック」があります。
一次的マイクロプラスチックはもともとマイクロサイズで製造されたものを指します。洗顔料、歯磨き粉のスクラブ等に利用されているマイクロビーズは、排水溝を通じて自然環境へ流出してしまいます。これらは微細なため製品化された後の対応や自然環境中での回収は困難となります。下水処理施設のフィルターでカットしても1%~5%は流れ出てしまうそうです。
発生抑制策として米国では2017年7月から販売禁止。フランスは2018年1月から販売禁止。英国では2017年から販売、製造禁止を表明。日本では国ではなく企業の取り組みとして日本化粧品工業連合会が平成28年3月に会員企業約1100社に自主規制を呼びかけ、最近ではマイクロビーズの代わりに塩やセルロースなどの天然素材を使った商品が増えてきました。
二次的マイクロプラスチックは大きなサイズで製造されたプラスチックが自然環境中で破砕・細分化され、マイクロサイズなったものを指します。海に流れ出たプラスチックは紫外線や海の流れの中で粉々に砕けます。それが5ミリ以下に小さくなれば「マイクロプラスチック」と呼ばれています。
こちらは発生抑制として、普及啓発や廃棄物管理・リサイクル推進等が有効です。また、細分化する前段階の大きなサイズでの回収も有効だそうです。
琵琶湖で発見されたマイクロプラスチックは多いのか少ないのか?
「結論から言うと琵琶湖にもマイクロプラスチックは存在します」藤原さんはそう言い切った後に「でも、多いか少ないかについては本当に基準があいまいです」と続けました。
マイクロプラスチック採取の手法には統一がなく、測定方法も今のところはありません。各研究者や調査機関がそれぞれのやり方でネットですくい、5ミリ以下のマイクロプラスチックを手作業でつまみ出し、顕微鏡で計測し調べているそうです。よって、ネットの網目の大きさ、引くスピードや計測方法なども統一されていない状態で、それぞれの結果を一緒に並べて比較するということが、正しいのかという懸念があるそうです。
琵琶湖では、京都大学研究グループが2016年6月調査を実施。「南湖で水1㎥あたり平均2.6個」「北湖で水1㎥あたり平均0.57個」という結果が出ました。南湖の結果は日本近海と同程度だそうですが北湖ではその4分の1程度にとどまりました。
マイクロプラスチックの研究者の中にはより小さなプラスチック(3ミリ以下)を計測することで新たな検出状況が明らかになるのではないかと考えているところもあるそうです。
琵琶湖湖底ごみについて初調査を実施
(令和元年6月23日に赤野井湾再生プロジェクト主催「びわ湖底ゴミ回収大作戦の様子」:写真提供藤原さん)
マイクロプラスチックの発生源の一つとなっているプラスチックごみに対し、効果的な削減対策等を検討するため、令和元年6月23日に赤野井湾再生プロジェクト主催の「びわ湖底ゴミ回収大作戦」で、回収したごみを県が調べるかたちで、琵琶湖の湖底ごみ(プラスチックごみ)の実態把握を行ったそうです。
作業は参加者186名の協力のもと、胴長で湖に入り、海底ゴミを回収。回収したごみをクレーンで陸に運び、陸上でごみの洗浄および分別を実施し、どのようなものがどれだけあるのかをまとめたそうです。
結果は、袋類、農業系プラごみ、トレイ、容器類、ペットボトル、その他プラごみなど実に全体の重量の52.9%、体積では74.5%がプラスチックごみという結果となりました。
琵琶湖でのマイクロプラスチックの影響
出店元:滋賀県 https://www.pref.shiga.lg.jp/
琵琶湖でマイクロプラスチックが検出されたというと、生態系への懸念が生じがちですが、現在 琵琶湖における生態系では「成長、成熟不良、肥満度低下等の長期にわたる生理的異常」は見られていないそうです。マイクロプラスチックによる化学物質の吸着、濃縮についても科学的知見はほとんどないそうです。
琵琶湖に限っていえば、マイクロプラスチックによる健康被害は現状考えられず、現時点では生態系への影響も認められていないそうです。よって、差し迫った危機にはないのですが、世界中で進められている研究から得られる新たな知見に注視する必要があるようです。
マイクロプラスチックが及ぼす人の健康への影響
プラスチックは、そのものに毒性はないとされ、体内に入ってもそのまま排出されます。化学物質への作用に関して、環境省が調査対象としているPCB類含有量は、琵琶湖では問題ないレベルで推移しています。
また、昭和50年から実施の調査で、水質から不検出が継続されています。簡単に言うと「琵琶湖のマイクロプラスチックによる人への健康影響は考えられない」ということだそうです。
では何が問題なのでしょうか。
まず、一度マイクロプラスチックになってしまうと、それをすべて回収するのはほぼ不可能ということです。そして世界のプラスチック廃棄量は今後も増加が見込まれるため、このままでは2050年までに海の魚の重量をプラスチックごみが上回ると予想されているそうです。
環境の中にプラスチックごみが存在すれば、マイクロプラスチックはさらに増加し続け、現在知られていないマイクロプラスチックの影響が今後新たに判明する可能性もあります。要は「どうなるかわからないから怖い」というものがマイクロプラスチックなのだそうです。
滋賀県が世界の先駆けに!?
「マイクロプラスチックが琵琶湖から出た」という一見ネガティブなことに対し、藤原さんの口からとても前向きな言葉が出てきました。それは、これからの滋賀県が目指せる可能性、世界に先駆けて結果を出せるかもしれないという希望です。
それは、「琵琶湖のプラスチックごみは対策を取れば減らせる可能性がある」ということ。海に面した海岸であれば、一度きれいにしてもまた漂流物が流されてきます。海外から流れつくこともあります。
その点、琵琶湖に流れてくる川はすべて滋賀県内から流れてくるため。県内のポイ捨て禁止やごみ拾いを滋賀県民全員で真剣に取り組むことで「世界初、マイクロプラスチックゴミ減量に成功した県」として国内外に発信でき、世界初のモデルケースとなりえるということです。
滋賀県では取り組みの先に必ず成果があると確信した取り組みができます。
マイクロプラスチックをなくすのは現在では不可能だとされていますが、減らすことは確実にできると藤原さんはいいます。
プラスチックが悪いというよりは、きちんと処理されずにごみが散乱しているという状態が悪いようです。
住民みんなで3R(リデュース、リユース、リサイクル)の取り組みを徹底し、ポイ捨てをせず、気付いたら拾う、など、プラスチックとの賢い付き合い方と、モラルある行動を意識することで今後のプラスチック問題は大きく変わるような気がします。滋賀から世界初を作り出すのはあなたの手です。
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1977年生まれ。
片付けの仕事を通して、環境問題やSDGs、プラスチックフリーやゼロウエイストに関心を持つ。
片付けコラム執筆、環境問題に配慮したライフスタイルの提案や片付けコンサルタント、セミナー講師をしています。
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