滋賀県民の生活は湖岸道路と水門に守られていた
大同川水門 画像提供:水資源機構 琵琶湖開発総合管理所
信号も少なく走りやすい湖岸道路、その道路沿いなどから見える水門や樋門。実はそれらは連携しあって私たちを水害から守る役割を担っていました。その役割や私たちが知っておきたいことをお聞きしてきました。
水資源機構を訪問しました
今回訪ねたのは独立行政法人 水資源機構(旧水資源開発公団)琵琶湖開発総合管理所。水資源機構は1973~1992年の20年間に渡り、治水(琵琶湖周辺と下流域を洪水から守る)・利水(琵琶湖周辺と下流域の安定した水を確保する)・環境保全を中心とした「琵琶湖開発事業」を行い、琵琶湖開発総合管理所では事業で整備された施設の操作・維持・修繕などの業務を行っています。
独立行政法人 水資源機構ホームページ: https://www.water.go.jp/kansai/biwako/
お話を伺ったのは、総務課の堀口(ほりぐち)さん、松山(まつやま)さん、管理課の春名(はるな)さんの3名。
琵琶湖は大小合わせて約460本の流入河川があり、一方で流出河川は瀬田川のみ1本という環境です。過去、琵琶湖に流れ込む川の氾濫や、湖水位が高くなることによる洪水で被害が長引くことがありました。これは湖岸堤が整備された現代でも例外ではなく、被害を抑えるためには人の手による操作が必要なのだそうです。
琵琶湖開発総合管理所では、国土交通省が管轄となる瀬田川洗堰の操作と連携しながら、様々な方法で湖岸の治水の実現を目指しています。
走りやすいだけじゃない!大きな意味を持つ湖岸道路
画像提供:水資源機構 琵琶湖開発総合管理所
県道として利用されているいわゆる「湖岸道路」。信号も少なくて景観もよく、ドライブルートして最高の道路なのですが、実はこの湖岸道路の一部は、琵琶湖の洪水被害を防ぐための湖岸堤(堤防)。この湖岸堤は地盤の低かった地域に、琵琶湖基準水位+2.6mの高さで全長50.4kmにわたり設けられています。
さらに、高波を抑えるために前浜が広く取られており、これによって堤防を低くすることができています。この前浜は景観や、親水空間としても有益に活用されています。
湖岸堤の管理は水資源機構が行っていますが、その上部は生活用道路としての県道として利用しており、一部を滋賀県が管理しています。
県内に158箇所ある水門・樋門・樋管とは
画像提供:水資源機構 琵琶湖開発総合管理所
滋賀県内には河川から琵琶湖へ流れ込む場所に水門・樋門(ひもん)・樋管(ひかん)が158箇所あります。水門・樋門・樋管とは大雨によって琵琶湖の水位が上昇したときにゲートを閉めることで、琵琶湖から内陸側へ水が逆流することを防ぎます。
河川にそのままゲートが設置されているように見えるのが水門、道路の下を通っているのが樋門・樋管となります。樋門と樋管は大小で区別され、比較的大規模なものを樋門、小規模なものを樋管と呼んでいます。
水門と樋門・樋管の役割は同じですが、堤防を分断してゲートを設置する場合を水門、堤防(湖岸堤)の中にコンクリートの水路を通してそこにゲートを設置したもの(琵琶湖の場合は湖岸道路の下を通っているものが多い)を樋門・樋管と呼びます。
内水排除施設(排水ポンプ)と水位保持施設(給水ポンプ)の役割
画像提供:水資源機構 琵琶湖開発総合管理所
一方で、洪水によって琵琶湖の水位が上昇し、水門・樋門・樋管ゲートを閉めてしまうと、行き場のなくなった内陸部の水は低い土地(田んぼなど)に溜まってしまう問題も起こってくるそうです。
この水を琵琶湖に排水するのが内水排除施設(排水ポンプ)です。排水ポンプは効率的に運転することで、低い土地に溜まった水をできるだけ早く琵琶湖に吐き出す役割があります。
水田の浸水時間を軽減するという設計で整備された施設ですが、近年は浸水も防いでほしいという要望もあり、対応に苦慮しているとのことでした。
また琵琶湖には内湖がいくつかありますが、その内の3箇所で琵琶湖の水位が下がると水門を閉めて内湖の水位低下を防ぐ施設もあります。給水ポンプで琵琶湖の水を内湖に送り、水を循環させることで内湖の水質が悪化しないように配慮されています。
操作は人海戦術で
画像提供:水資源機構 琵琶湖開発総合管理所
水資源機構 琵琶湖開発総合管理所では、この158箇所の水門・樋門・樋管を管理されています。滋賀県内には大津市(堅田エリア)の総合管理所を含め、湖北管理所(米原市)・湖西管理所(高島市)・湖南管理所(草津市)の4管理所があります。普段から非常時の操作に支障がないよう、定期的に施設の点検や操作の訓練が実施されています。
筆者:「実際に琵琶湖の水位が上がり、水門・樋門・樋管の操作が必要な場合はそれぞれの管理所で遠隔操作されるということでしょうか」
松山さん:「いえ、水門・樋門・樋管は現地で状況を確認しながらの操作になります。非常時は40名ほどのスタッフが琵琶湖の周りを走り回ります」
大同川水門 航行時の注意点
画像提供:水資源機構 琵琶湖開発総合管理所
東近江市の「大同川水門」と草津市の「津田江北水門」「津田江南水門」は船舶の航行が可能です。航行の際は、下記のようなゲートごとの注意点があります。船舶の航行というと一般の方には無関係な印象が受けますが、実際には釣りをされる方やマリンスポーツを楽しむ方も大きく関係してくるのでぜひ知っておいてくださいとのことでした。
まずは東近江市の「大同川水門」航行時の注意点の確認です。
- 調節ゲート:通年航行できません。このゲートは航行できるように見えても、水面下にゲートが隠れており大変危険です。
- 制水ゲート:開いていれば航行できます。
- 閘門(こうもん):いつでも航行できます。操作方法は現地に掲示しています。なお、洪水等により隣接する排水機場が稼動しているときには、危険回避のため航行禁止とする場合があります。閘門を航行可能な船舶は、全長10m×全幅3.6m以下、水面上の高さ2.5m以下、喫水(船体の一番下から水面までの垂直距離)1m 以下です。
津田江水門 航行時の注意点
画像提供:水資源機構 琵琶湖開発総合管理所
次に草津市の「津田江北水門」「津田江南水門」航行時の注意点を確認しましょう。近隣でマリンスポーツのイベントが開催されることも多い水門です。
- 起伏堰:通年航行できません。水面下にはゴム製の起伏があり、渇水時にはこれを膨らませて立ち上げますので、航行できません。なお、起伏堰周辺をフロートで閉鎖しており、船舶の進入はできません。
- 制水ゲート:開いていれば航行できます。ただし、渇水時または洪水時には、すべてのゲートを閉めますので航行できません。この場合は、津田江北水門にある「閘門」をご利用ください。
- 閘門:いつでも航行できます。操作方法は現地に掲示しています。閘門を航行可能な船舶は、全長10m×全幅3.6m以下、水面上の高さ2.5m以下、喫水1m 以下です。
魚たちの産卵・生育も考えながらの水位操作
画像提供:水資源機構 琵琶湖開発総合管理所
湖岸堤がなかった頃は、琵琶湖の魚は浸水地や内湖、田んぼを自由に行き来して産卵や稚魚の成育が安全にできる場所がたくさんありました。しかし湖岸堤の設置などにより移動経路が分断され、生命を育む力が衰退していると言われています。
水資源機構では、魚たちが産卵・生育するためのビオトープや田んぼ池の整備、ヨシ帯づくりなどの環境づくりにも取り組んでいるそうです。
県民にも嬉しい環境保全活動
画像提供:水資源機構 琵琶湖開発総合管理所
近年問題となっているのが湖岸堤などへのゴミの投棄。小さなゴミから布団や家電などの大型ゴミまで悩まされているそうで、カメラの設置・警察への通報などで対策。こういった不法投棄防止の取組もしているそうですが、琵琶湖開発総合管理所の皆さんが本来の業務に専念できるよう、このような不法投棄がなくなることを願います。
またゴミ対策以外にも環境保全活動として、堤防の刈草を使った堆肥や施設管理で発生した木材チップの無料配布も実施。毎年なくなり次第配布終了とのこと。ご希望の方は事前に電話確認されることをおすすめします。ご自身での積み込みとなりますので、スコップや袋などをお持ちください。
湖岸道路や水門、ビオトープ・・・一見無関係に思える様々な要素が密接に関わり合いながら、私たちの生活を守ってくれていることを今回の取材で実感しました。
1980年 高島市生まれ。守山市在住。
大学卒業後は大阪・東京に在住するも故郷の魅力を再認識し滋賀にUターン。
普段は子育て情報誌の編集やまちづくりに関するイベント運営などを行っています。
趣味は空手とチアダンス。三姉妹の母。
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